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契約書に盛り込むセキュリティ条項例

【注意書き】本記事は、「契約書に盛り込むセキュリティ条項」の一般的な考え方と条項例を整理する目的で作成しています。実際に有効な条項は、委託範囲(開発/運用/保守/SOC等)、システム構成(オンプレ/クラウド/ハイブリッド)、取り扱う情報の性質(個人情報・機微情報・営業秘密等)、法令・業界ガイドライン、既存統制、監査要件、可用性要件(止められない事情)などで大きく変わります。雛形の流用や文言のつぎはぎは、いざという時に責任分界が崩れて「守れない契約」になりがちです。具体的な案件で迷う場合は、株式会社情報工学研究所のような専門家に相談し、契約と運用が噛み合う形に落とし込むことをおすすめします。

 

「あとでセキュリティも入れといて」が一番危ない―契約書は“運用”の入口

「納期が先、まず動くものを出して、セキュリティは後で」――現場で何度も聞く言い回しです。気持ちは分かります。レガシーが止められない、要求は増える、障害対応は減らない。そこへ「追加のチェックリスト」としてセキュリティが乗ると、“また運用が増えるだけ”に見えるのが自然です。

でも、契約書のセキュリティ条項はチェックリストではなく、運用を成立させるための前提条件です。たとえば「ログを出せ」と書くだけでは足りません。どのログを、誰が、どこに、何日、改ざん耐性をどう担保して、インシデント時にどう提出するか。ここまで決めないと、現場は動けません。動けない契約は、守れない契約です。


エンジニア目線で言い換えるなら、条項は“仕様”です。仕様は「できる/できない」が決まっていないと実装できません。契約も同じで、「責任」「期限」「範囲」「例外」「コスト負担」を曖昧にしたまま署名すると、後から必ず歪みが出ます。そして、その歪みは障害や漏えいの局面で一気に表面化します。

ここで伏線を一本置きます。セキュリティ事故は技術の失敗だけではなく、“合意の失敗”で起きることが多い、という点です。アクセス権の付与手順が決まっていない、脆弱性対応の期限が曖昧、連絡先や初動の役割が不明。技術が正しくても、合意がないと運用は崩れます。

本記事では、現場が「なるほど、これなら運用できる」と腹落ちする形で、条項を“測れる”状態にしていきます。結論はまだ言いません。まずは「誰が何を担うか」を決めるところから始めます。

 

条項は“仕様”である:責任分界(RACI)を決めないと守れない

契約のセキュリティ条項で最初に決めるべきは、技術論よりも責任分界です。なぜなら、責任分界が曖昧な条項は、どれだけ立派な文言でも運用されないからです。現場の独り言としてはこうです。「それ、誰がやるの?」「夜間対応は?」「パッチ適用の判断は?」「ログの保管費用は誰持ち?」――この問いに答えない条項は、実質“未実装”です。

実務ではRACI(Responsible/Accountable/Consulted/Informed)のような形で、最低限の役割を明確にします。契約書本文に全部を書き切るのが難しければ、別紙(運用設計書、セキュリティ運用規程、SLA/OLA)として参照させ、変更手続き(合意の取り直し)まで条項化しておくのが現実的です。

論点 委託元(発注側) 委託先(受注側) よくある落とし穴
アカウント発行/削除 申請・承認 実施・記録 退職/異動の反映遅れ
パッチ適用 業務影響判断・停止許可 適用計画・実施・ロールバック 「止められない」で先送り
ログ保全 保全要件(期間/提出) 保管・改ざん対策・提出 容量/費用の合意不足
インシデント初動 対外窓口・法務/広報連携 技術初動・証跡確保 連絡遅延と証拠毀損

条項例としては、次の要素を“測れる言葉”にします。

  • 役割:誰がResponsible(実作業)で、誰がAccountable(最終責任)か
  • 連絡:一次連絡先、二次連絡先、連絡手段、連絡期限(例:検知から○分以内)
  • 承認:停止判断、緊急変更、例外対応(承認者と承認手順)
  • 費用:ログ保管や監査対応などの追加コスト負担
  • 変更:クラウド移行や構成変更時に、条項・別紙をどう更新するか

ここまでやると「契約が重くなる」と感じるかもしれません。ただ、これは重さではなく、不確実性を減らして運用を軽くするための前払いです。責任分界が明確だと、障害やインシデント時の“言った言わない”が減り、初動が速くなります。

次章では、責任分界の次に重要な「範囲」を固めます。ここが曖昧だと、どの条項も空中戦になります。

 

対象範囲を切る:資産・データ分類・委託範囲の定義

セキュリティ条項が揉める典型は、条項の中身が悪いのではなく、何を守る契約なのかが決まっていないことです。「システムを守る」「情報を守る」では広すぎます。エンジニア的には、対象が決まらないまま「性能保証しろ」と言われるのと同じで、成立しません。

まず資産を切ります。例として、アプリ、DB、OS、ネットワーク機器、CI/CD、監視基盤、バックアップ、鍵管理、SaaS(ID基盤、メール、チケット)など。委託先が触るもの・触らないもの、触る場合でも権限がどこまでかを分けます。


次にデータ分類です。個人情報、機微情報、認証情報、営業秘密、ログ(個人が特定され得る)など、データの性質で要求水準が変わります。分類は細かすぎると運用できないので、まずは「公開/社外秘/機密」程度からでも構いません。重要なのは、分類が条項に接続していることです。たとえば「機密データは暗号化必須」「機密データは持ち出し禁止」「機密データはアクセスログ必須」のように、分類→対策が一本線で繋がっている状態を作ります。

委託範囲も同様です。開発だけなのか、運用保守まで含むのか、24/365の一次対応を含むのか、SOCやCSIRT連携まで求めるのか。ここが曖昧だと、インシデント対応条項で必ず破綻します。「対応する」と書いてあっても、誰が夜中に動くのかが決まっていないからです。

定義すべき範囲 具体例 条項への落とし込み例
システム範囲 本番/検証/開発、関連SaaS 対象環境の列挙、例外の明記
データ範囲 個人情報、認証情報、ログ 分類別の暗号化/アクセス/保管要件
業務範囲 開発、運用、監視、一次対応 SLA/OLA、連絡期限、当番有無

ここで伏線をもう一本置きます。セキュリティ条項は「全部やる」ではなく、“境界を決めて、境界を守る”ことが本質です。境界があるから、アクセス制御もログもSLAも設計できます。

次章では、その境界を実務で守るための中核である「アクセス制御(ID・権限・特権・鍵)」を、条項として破綻しない形にします。

 

アクセス制御を文章化する:ID、権限、特権操作、鍵管理

セキュリティ条項で「アクセス制御を実施する」と書くのは簡単ですが、実務で揉めるのはいつも“運用の粒度”です。現場の頭の中には、すぐ独り言が浮かびます。「結局、誰がアカウント作るの?」「退職当日に消える?翌週?」「緊急時の特権は誰が持つ?」「SSH鍵やAPIトークンはどう回す?」――ここが決まっていないと、条項は守れません。


条項として最低限“測れる状態”にしたいのは、次の4点です。①IDのライフサイクル(発行/変更/削除)②権限設計(最小権限・分離)③特権操作(管理者権限)の統制④鍵・シークレット管理です。これらはクラウド/オンプレを問わず、運用の中心になります。

まずIDのライフサイクルです。契約で決めるべきは「申請の手順」より、期限と証跡です。たとえば、発注側が承認したリクエストに基づき、受注側がアカウントを発行する。退職・異動・委託終了などの削除トリガーが発生したら、何時間以内に無効化するか。実施したことを、チケットや作業記録として残すか。この“時間”と“証跡”を決めていない条項は、事故時に検証できません。

次に権限設計です。契約でありがちな失敗は「最小権限にする」と抽象語で終わることです。条項では、権限付与の原則を宣言したうえで、定期レビュー(例:四半期ごと)不要権限の剥奪共有アカウントの禁止など、検証可能なルールに落とします。SSO(SAML/OIDC)やMFAの必須化も、可能なら要件として明記します(ただし既存システムで即時対応できない場合は移行計画と期限を別紙で合意します)。


特権操作の統制は、特に「止められないレガシー」で重要です。緊急対応(break-glass)用の管理者権限を完全にゼロにするのは現実的でないことが多いからです。そこで条項では、break-glassを許容する代わりに、発動条件承認の要否事後報告の期限操作ログの必須化をセットで決めます。ここが曖昧だと、「緊急だった」で何でも通る状態になり、内部不正や誤操作の温床になります。

鍵・シークレット管理は、今のシステムでは避けて通れません。SSH秘密鍵、APIキー、DBパスワード、クラウドのアクセスキー、暗号鍵(KMS/HSM)など、形は違っても“秘匿すべき値”が多数あります。条項としては、ソースコードへの直書き禁止保管場所(Secrets Manager/Vault等)ローテーション(例:一定周期または漏えい疑い時)アクセス権と監査ログを定義します。クラウドの場合は、長期のアクセスキーよりもロール(短期クレデンシャル)を原則とする、といった方針も有効です。

領域 条項に落とすと強いポイント 現場で効く理由
ID発行/削除 削除トリガーと無効化期限、証跡保存 退職・委託終了の“穴”を埋める
権限設計 最小権限+定期レビュー+共有禁止 権限の増殖を止める
特権操作 break-glass条件、事後報告期限、操作ログ 緊急対応と統制の両立
鍵/シークレット 集中管理、直書き禁止、ローテーション、監査 漏えい時の被害拡大を抑える

ここまでが「守れるアクセス制御」の土台です。次章では、これらの統制が“後から検証できる”状態を作るための、ログと証跡(フォレンジック含む)の条項化に進みます。

 

ログと証跡:保全期間・改ざん耐性・提出手順まで決める

ログは「取ってます」で終わると、いざという時に役に立ちません。現場の本音はこうです。「ログはある。でも探せない」「時刻がズレてて相関できない」「容量が足りなくてローテートされてた」「誰でも消せる場所にあった」――ログは、“調査の材料”であると同時に、“契約上の成果物”にもなり得ます。だからこそ条項では、取る/取らないではなく、何が、どこに、どれだけ、どんな性質で残るかを決めます。


まず対象です。最低限、次のログは「対象になり得る」と明確化しておくと事故対応がブレません。

  • 認証・認可ログ(ログイン成功/失敗、MFA、権限変更、トークン発行)
  • 特権操作ログ(管理者操作、設定変更、データの一括取得、CLI/API呼び出し)
  • アプリケーションログ(重要機能の操作、エラー、例外、監査イベント)
  • ネットワーク/境界ログ(FW、WAF、プロキシ、VPN、DNS等、可視化できる範囲で)
  • バックアップ/復元ログ(成功/失敗、対象、実行者、復元テスト結果)

次に“時刻”です。ログの相関には時刻が必要なので、NTP等で時刻同期を行うこと、タイムゾーンの扱い(JST/UTC)を統一することは、実務では極めて重要です。条項としては、時刻同期の実施と、重大インシデント時に“時刻ズレの有無”を報告できる体制があるかを押さえます。


そして核心が、保全期間改ざん耐性です。保全期間は、法令・監査・業務要件・調査の現実で決めます。改ざん耐性は、ログが「消される」「書き換えられる」リスクに備える考え方です。たとえば、ログを機器ローカルだけに置くのではなく、集中保管(ログ基盤/SIEM)に転送し、アクセス権を絞る。さらに必要なら、変更不可(イミュータブル)なストレージ設定やWORM相当の運用を検討します。ここは環境により実装が変わるため、「どの方式で担保するか」を別紙にし、最低限“改ざん検知または抑止の仕組みがあること”を契約で要求するのが現実的です。

最後に“提出手順”です。インシデント時に「ログを出してください」と言っても、誰が集め、どの形式で、どの経路で渡すのかが決まっていないと、現場は混乱します。条項には、提出のトリガー(重大度判定)、提出までの期限、提出の形式(例:原本性を保つ、圧縮・ハッシュ値付与等)、機密性(暗号化や安全な受け渡し)を入れます。調査のために必要な範囲の協力義務も、ここに繋がります。

項目 決めるべきこと 決めないと起きること
保全期間 ログ種別ごとの保持期間と例外 調査時にログが残っていない
改ざん耐性 権限分離、集中保管、変更不可運用等 攻撃者/内部者に消される
提出手順 トリガー、期限、形式、受け渡し経路 初動遅延・証拠毀損・追加コスト

ここまでで「アクセス制御」と「ログ」が一本線で繋がりました。次は、日々変わる脆弱性に対して、現場が過剰に疲弊せずに回せるよう、脆弱性管理SLAを条項として成立させます。

 

脆弱性対応SLA:発見→通知→修正→検証をタイムライン化

脆弱性対応が揉めるのは、「すぐ直せ」が現実として無理な場面が多いからです。止められないシステム、変更が怖いレガシー、依存関係が複雑なミドルウェア、検証環境が追いつかない――現場は分かっています。「直したい。でも直せない」。この“直せない”を放置すると、結果として「やってない」のと同じ扱いになり、リスクも責任も増えます。


そこで契約では、脆弱性対応を精神論にせず、プロセスと期限に落とします。ポイントは「パッチを当てる」だけではありません。①情報の検知②影響評価③優先度決定④修正/緩和策⑤検証⑥報告までを一本にします。

検知(情報源)は、製品ベンダのアドバイザリ、CVE情報、クラウド事業者の通知、社内/外部の脆弱性診断、SAST/DAST、依存関係スキャンなど複数になります。条項としては、「どの情報源を最低限監視するか」「受注側が能動的に追うのか、発注側の指示で動くのか」を明確にします。ここが曖昧だと、“知らなかった”が発生しやすくなります。


次が影響評価と優先度です。一般に深刻度(Critical/High/Medium/Low)で時間目標を置きますが、実際には「インターネット露出」「認証回避」「機密データへの到達性」「悪用が現実化しているか」などで優先度が変わります。条項では、深刻度の定義を完全に固定できない場合でも、評価の期限判断の記録を要求すると運用が締まります。

区分(例) 初動(評価/方針決定)の目標 恒久対応の目標 補足
Critical(例:外部露出+重大影響) 24〜48時間以内 短期(例:数日〜)で適用/緩和 止められない場合は緩和策必須
High 数営業日以内 合意した期間内(例:数週) 影響範囲の把握が鍵
Medium/Low 定例サイクルで整理 計画保守で対応 技術負債の棚卸しとセット

上の表はあくまで“設計の考え方”です。実際の期限は、システムの重要度や停止可否、保守体制で調整が必要です。重要なのは、期限そのものより、期限を決める手続き(合意形成)が条項化されていることです。たとえば「期限内にパッチ適用が不可能な場合、受注側は代替緩和策(設定変更、WAFルール、アクセス制限等)を提案し、発注側と合意した上で実施する」「例外は理由と期限を記録し、定期会議で見直す」などです。


さらに、現代の開発では依存関係(OSS含む)の管理が大きな比重を占めます。ここで条項に入れやすい現実解は、依存関係の棚卸し(構成管理)と、更新方針(LTS優先、EOL回避)です。SBOMまで必須にするかは案件次第ですが、「何に依存しているか分からない」状態を放置すると、脆弱性対応は永遠に後手になります。

次章では、脆弱性対応が“間に合わなかった”ときに現実に起きるインシデント対応を、揉めずに回すための条項(連絡・初動・証跡・報告)に落とし込みます。

 

インシデント対応条項:初動の連絡、封じ込め、根因分析の“締切”

インシデント対応条項は、平時には「読まれないページ」になりがちです。でも本番で火が出た瞬間、ここが“唯一の共通言語”になります。現場の心の声はだいたい同じです。「まず止血したい。けど、勝手に止めると怒られる」「ログを確保したい。けど、復旧を急げと言われる」「どこまで調べれば“報告した”ことになるの?」――この迷いが、初動遅延と二次被害を生みます。


条項として“守れる状態”にするコツは、インシデント対応を工程として定義し、工程ごとに「誰が」「いつまでに」「何を」やるかを置くことです。代表的には、(1)検知・通報、(2)封じ込め、(3)証跡保全、(4)影響評価、(5)根因分析、(6)恒久対策、(7)再発防止・報告、の流れです。全部を同じ温度で書くと運用できないので、重大度(Severity)で分けます。

重大度の定義は組織ごとに違いますが、少なくとも「機密データの漏えい疑い」「認証情報の漏えい疑い」「サービス停止/大規模障害」「マルウェア感染/ランサム疑い」などは“重大”として扱えるようにしておくと実務が安定します。そして重大度ごとに、通知期限一次対応の範囲を決めます。

工程 条項で決めるべきこと 決めないと起きること
検知・通報 連絡先、連絡手段、重大度別の期限(例:検知から○分/○時間) 「聞いてない」「連絡が遅い」で初動が止まる
封じ込め 緊急遮断の権限、停止判断の承認ルート、例外時の事後報告 止血できず被害拡大、または勝手な停止で揉める
証跡保全 保全対象(ログ/イメージ等)、原本性(ハッシュ等)、保全の優先順位 復旧を急いで証拠が消える(根因不明・再発)
根因分析・報告 暫定報告/最終報告の期限、報告項目(影響範囲、原因、対策) いつまでも“調査中”で合意が崩れる

「証跡保全」は特に、契約で守ってあげる価値があります。なぜなら、現場が一番やりたいのに、一番削られやすいからです。条項としては、重大インシデント時にログの保全・提出に協力する義務、必要に応じて第三者調査(フォレンジック)を実施できること、調査のためのアクセス権やデータ提供の手順、個人情報や機密情報の取り扱い(守秘・目的外利用の禁止)をセットで整理します。

また、費用負担は曖昧にしない方が現場が楽です。インシデントは追加工数が必ず発生します。「通常保守に含む/含まない」「一定時間まで含む」「追加見積」など、どの形でも良いので“揉めない形”にしておくのが重要です。


ここで伏線回収の一部です。事故対応は技術だけではなく、合意の設計です。連絡期限・権限・証跡保全・報告締切が決まっていると、現場は迷いが減り、結果として被害も小さくなります。

次章では、インシデントが“起きない前提”では回らない現実に向き合い、止められないシステムのためのBCP/DR(復旧要件)を、契約の言葉に落とします。

 

BCP/DRとサービスレベル:止められないシステムの復旧要件を契約に落とす

「止められないから、変更できない」――多くの現場が抱える矛盾です。そして、止められないシステムほど、障害や攻撃が起きたときのダメージが大きい。だからこそ、BCP/DR(事業継続/災害復旧)を“理念”で終わらせず、復旧要件として契約に落とす価値があります。

ここで現場の心の会話を入れるならこうです。「復旧って言うけど、どこまで戻れば“復旧”なの?」「バックアップはある。でも戻したことがない」「RTO/RPOって言うけど、現実の運用が追いつかない」――このギャップは、契約の曖昧さから生まれます。


BCP/DRを条項化するときは、まず用語を揃えます。代表的なのがRTO(復旧までの目標時間)とRPO(許容できるデータ損失量)です。これを決めると、バックアップ頻度・保管・復元手順・復元テストの必要条件が連鎖的に決まります。

用語 意味 条項・別紙に落とす観点
RTO 復旧(サービス再開)までの目標時間 対象サービス、暫定復旧の許容範囲、当番体制
RPO 許容できるデータ損失の目標 バックアップ頻度、レプリケーション、整合性確認
復元テスト バックアップから戻せるかの検証 頻度、手順、合否基準、報告・是正
DR手順 別系統での復旧/切替 切替条件、訓練、DNS/証明書/鍵の扱い

バックアップ条項の落とし穴は、「取得する」と書いて安心することです。実務では、復元できなければバックアップではないので、条項に「定期的な復元テスト」「復元失敗時の是正期限」「テスト結果の報告」を入れると強くなります。さらに、ランサムウェア対策としては、バックアップの隔離(論理的/物理的)や、変更不可(イミュータブル)運用の検討が現実に効きます。ただし方式は環境で異なるため、契約本文は原則・義務を置き、具体方式は別紙で合意更新できるようにします。

サービスレベル(SLA)との関係も重要です。可用性(稼働率)だけを書いても、重大障害時に必要なのは「何時間以内に誰が動くか」です。SLA/OLAを別紙で作り、(1)受付/一次対応、(2)エスカレーション、(3)暫定復旧、(4)恒久復旧、(5)事後報告、を時間軸で揃えると、運用が迷いません。


ここで「一般論の限界」が見えてきます。RTO/RPOは、業務と構成に依存します。DBの整合性、分散システムの復旧順序、認証基盤の依存、鍵の再発行、クラウド障害時の代替経路――案件によって“復旧”の定義が違うからです。だからこそ、契約条項は雛形の丸写しではなく、現実の復旧手順に合わせた合意が必要になります。

次章では、ここまで作った条項がサプライチェーン(再委託・クラウド・第三者サービス)で穴あきにならないよう、第三者管理と監査の考え方を整理します。

 

第三者・再委託・クラウド:サプライチェーンの穴を塞ぐ監査と制約

いまのシステムは、単独のベンダだけで完結しません。クラウド、SaaS、決済、CDN、監視、CI/CD、外部API、そして再委託先。つまり、セキュリティ条項は“自社と相手だけの約束”ではなく、供給網(サプライチェーン)まで含む約束になっています。

ここで現場の本音が出ます。「うちはちゃんとしてる。でも相手の下請けまで見えない」「クラウドはベンダ都合で変わる」「監査したいけど、どこまで言えるの?」――この不安を、契約で現実的に下げるのが本章の目的です。


まず再委託(下請け)です。条項として押さえるべきは、(1)再委託の事前承認、(2)守秘・セキュリティ義務の“流れ込み”(同等義務を課す)、(3)再委託先の管理責任(元請けが責任を負う範囲)、(4)委託終了時のデータ返却・消去、です。ここがないと、実務では「その作業は別会社なので分かりません」が起きます。

次にクラウドです。クラウドには共有責任モデル(何をクラウド事業者が担い、何を利用者が担うか)があります。契約条項では、クラウドそのものを“万能の責任転嫁先”にしないことが重要です。たとえば「クラウドなのでセキュリティは担保される」ではなく、利用者側の責任(IAM設定、鍵管理、ログ設定、ネットワーク制御)を明確にし、その運用を誰が担うかを委託契約の中で決めます。


監査・確認の条項も現実的に設計します。全てのベンダに立入監査を求めるのは難しい場合が多いので、代替として次を組み合わせることが多いです。

  • 第三者認証や外部監査報告の提示(例:情報セキュリティマネジメントの運用証跡等)
  • 年次/四半期の運用報告(脆弱性対応状況、権限レビュー実施状況、インシデント有無)
  • 重大インシデント時に限定した調査協力義務(ログ提出、事実関係の報告)
  • 再委託先の一覧管理と、変更時の通知

重要なのは、監査を“相手を疑うため”ではなく、契約で合意した運用が本当に回っているかを確認するために置くことです。これができると、発注側も受注側も「後から無理難題を言われる」リスクが下がります。

論点 条項に入れると効く要素 現場のメリット
再委託 事前承認、同等義務の付与、管理責任、終了時の消去 「下請けなので不明」を防ぐ
クラウド運用 共有責任の明確化、IAM/鍵/ログの担当者定義 設定ミスの責任分界が明確
監査・確認 報告頻度、提出物、重大時の協力義務 “守れる運用”の継続確認ができる

ここまでで、条項は「技術の正しさ」ではなく「運用の成立性」に寄せて設計できました。残るのは帰結です。最終章では、これらを“揉めない・守れる・測れる契約”として束ね、一般論の限界と、個別案件で専門家に相談する合理性を自然に整理します。

 

帰結:揉めないセキュリティは“測れる契約”から—守れる条項が現場を救う

ここまで読んで、「結局、セキュリティ条項って“頑張ります”じゃなくて、運用を回すための仕様なんだな」と感じていただけたなら、狙い通りです。契約書の文言は、理想論の作文ではなく、現場が実際に動けるようにする“合意の設計図”です。設計図が曖昧なら、実装(運用)も曖昧になり、いざという時に破綻します。


第1章で置いた伏線を回収します。セキュリティ事故は、技術の失敗だけではなく“合意の失敗”で起きる。その合意の失敗は、たいてい次の形で現場に降ってきます。

  • 「誰がやるの?」が決まっていない(責任分界がない)
  • 「どこまでやるの?」が決まっていない(対象範囲がない)
  • 「いつまでに?」が決まっていない(期限・SLAがない)
  • 「どうやって証明する?」が決まっていない(ログ・証跡・提出手順がない)
  • 「例外が増えた時にどう更新する?」が決まっていない(変更手続きがない)

この“ない”を減らしていくのが、本記事で整理した条項群です。アクセス制御(ID/権限/特権/鍵)、ログと証跡、脆弱性対応SLA、インシデント対応、BCP/DR、再委託・クラウド・監査。どれもバラバラの話に見えますが、一本の線で繋がっています。運用できる=測れる=揉めにくいという線です。

条項のテーマ “測れる”とは何か 現場の腹落ちポイント
責任分界 担当者/承認者/連絡先が固定されている 「それ誰がやるの?」が消える
範囲定義 対象資産・環境・データが列挙されている “守るもの”が明確になる
ログ・証跡 保持期間・改ざん耐性・提出期限が決まっている 調査ができる=再発が減る
SLA/期限 重大度別の時間目標がある 迷いが減って初動が速い
変更手続き 構成変更時の別紙改訂ルールがある 現実の変化に追随できる

では、実務でどう進めるのが一番ラクか。おすすめは「契約本文+別紙(セキュリティ運用設計)」の二層構造です。契約本文には、守るべき原則と義務、責任分界、協力義務、重大時の連絡期限、監査/報告の枠組み、再委託の管理、終了時のデータ返却・消去など“変えにくい骨格”を置きます。一方で別紙には、ログの具体、鍵管理の方式、脆弱性対応の分類と期限、復元テストの頻度、監視の対象、当番体制など“現実に合わせて更新したい運用”を置きます。

この二層構造にしておくと、現場の心理的負担が下がります。「契約を変えるのは法務調整が重いけど、別紙なら運用会議で合意更新できる」。この差は大きいです。セキュリティは固定物ではなく、脆弱性・クラウド仕様・依存関係・攻撃手法の変化に追随する“運用”だからです。


ただし、ここが本記事の重要な落としどころです。一般論には限界があります。同じ「ログを残す」でも、クラウドのマネージドサービス、オンプレのレガシー、複数ベンダが絡む構成で、集め方・守り方・費用が違います。同じ「脆弱性SLA」でも、止められない基幹系と、停止できる周辺系で期限の現実解が違います。同じ「BCP/DR」でも、RPOを詰めるほどコストや複雑性が跳ね上がる領域があります。だから雛形は“入口”にはなりますが、雛形のまま署名すると、結局現場が詰みます。

ここで自然に次の判断が出てきます。「自社の案件に合わせて、条項と運用を噛み合わせたい」。このフェーズで頼れるのは、単に条文を並べる人ではなく、システム構成・運用実態・障害/インシデント対応の現実を踏まえて、合意を設計できる専門家です。


株式会社情報工学研究所のような技術の専門家に相談する価値は、まさにそこにあります。条項案を“それっぽく整える”のではなく、現場が守れる粒度に落として、ログ/権限/復旧/脆弱性対応が実際に回る形にし、さらに「例外が出る前提」で更新手続きを設計する。結果として、セキュリティのために運用が増えるのではなく、揉め事と手戻りが減って運用が軽くなる方向に持っていけます。

もし今、具体的な案件で「委託範囲が複雑」「クラウドとオンプレが混在」「ベンダが複数」「止められない基幹がある」「監査や法令対応が絡む」などの状況なら、雛形の微調整で済ませず、一度“条項と運用の整合”を点検するのが安全です。小さく相談して、別紙を一枚作るだけでも、後の被害とコストを大きく抑えられることがあります。

 

付録:主要プログラミング言語ごとの注意点(契約・運用で押さえる観点)

最後に、現場でよく使われるプログラミング言語について、セキュリティ観点で「起きやすい事故」と「契約・運用に反映しやすい注意点」をまとめます。ここで言いたいのは、特定言語が危険という話ではありません。言語ごとに“事故の型”が違うので、条項(責任分界・SLA・ログ・診断・依存関係管理)を現実に合わせるヒントになる、という位置づけです。


C / C++

メモリ安全性が言語仕様として保証されないため、バッファオーバーフローやUse-After-Freeなどのクラスの不具合が、致命傷になりやすい領域です。契約・運用では、静的解析やコードレビューの要求水準、脆弱性の修正優先度、ビルドフラグ(ASLRやStack Protector等の有無)、依存ライブラリの更新方針を別紙に落とすと現実的です。組込みや長期保守ではEOL回避も重要になります。

Rust

メモリ安全性のメリットがある一方で、unsafeの扱い、依存クレートの更新、ビルドチェーン(ロックファイル、再現可能ビルド)など“周辺の運用”が品質を左右します。契約では、依存関係の棚卸し、更新サイクル、重大脆弱性発生時の対応期限、レビュー観点(unsafe領域の監査)を明記すると効果が出ます。

Go

標準ライブラリの充実で堅牢に作りやすい一方、依存モジュール管理と、並行処理まわりの設計ミス(競合・リソース枯渇)で可用性事故が起きることがあります。契約では、DoS耐性(レート制限、タイムアウト、リトライ制御)の設計責任、ログの粒度、依存関係の更新、SLO/SLAの前提条件を明確化すると揉めにくくなります。

Java

成熟したエコシステムですが、依存関係が巨大化しやすく、脆弱性(特にライブラリ由来)の影響範囲が広がりがちです。また、シリアライズ/デシリアライズやテンプレート処理、設定ミスが事故に直結することもあります。契約・運用では、依存関係スキャンの実施、重大脆弱性のSLA、ログ保全(監査ログ含む)、運用パッチ適用の停止可否と手順を“時間軸”で合意すると現実的です。

C# / .NET

開発体験は良い一方、設定(認証・認可、シークレット管理、ホスティング構成)のミスや、サードパーティ依存の更新遅れがリスクになります。契約では、Secretsの取り扱い(環境変数/シークレットストア等)、アクセス権と監査ログ、依存パッケージ更新の責任、インシデント時のログ提出手順を押さえると実務が安定します。

Python

迅速に開発できる反面、依存パッケージの脆弱性や、動的型付けによる実行時エラーが可用性事故に繋がることがあります。Webでは入力検証不足やテンプレート/シリアライズの扱いが問題になりがちです。契約では、依存関係の固定(ロック)、脆弱性対応期限、秘密情報の直書き禁止、ログの個人情報配慮(マスキング等)を具体化すると効果的です。

JavaScript / TypeScript(Node.js含む)

サプライチェーン(依存パッケージ数が膨大)と、ビルド/実行環境の多様性がリスクになります。特に依存関係の更新と検証、署名・改ざん耐性、設定ミス(CORS、認証、トークン管理)が事故要因になりやすいです。契約では、依存関係スキャン、更新サイクル、ビルド成果物の管理(誰が何をデプロイするか)、CI/CDのアクセス権と監査ログを“責任分界”として決めておくと揉めません。

PHP

長年使われている分、レガシー運用が混在しやすく、フレームワークやプラグインの更新遅れが脆弱性に直結しがちです。入力処理やテンプレート、ファイルアップロード周りの設計不備も典型です。契約では、EOLになったバージョンの扱い(継続利用するなら追加対策の合意)、パッチ適用SLA、WAF等の緩和策の責任分界、ログ保全を明確にするのが有効です。

Ruby

生産性が高い一方、依存(gem)管理と、フレームワーク設定の理解不足で事故が起きることがあります。契約では、依存関係更新、脆弱性対応期限、診断(SAST/依存スキャン)の実施、インシデント時のログ提出の範囲を定義すると運用が安定します。

SQL(言語というより層)

SQLインジェクションは古典ですが、今でも“入力→クエリ”の境界が曖昧な実装で起きます。また、権限設計(DBアカウントの最小権限)と監査ログが弱いと、内部不正や侵害時の追跡が困難になります。契約では、パラメータ化の原則、DB権限の設計責任、監査ログの保全期間、バックアップと復元テスト(整合性確認含む)を押さえると強いです。

Shell / PowerShell

運用自動化の便利さの裏で、権限の強さ・ログの薄さ・秘密情報の露出(平文のトークンやパスワード)が事故に繋がりやすい領域です。契約では、スクリプトの保管場所とアクセス制御、秘密情報の扱い、実行ログ(監査)を明記し、break-glass運用の条件と事後報告をセットで合意すると現場が守りやすくなります。


この付録の要点はシンプルです。言語や技術スタックが違えば、事故の型も、必要なログも、脆弱性対応の現実解も変わります。だからこそ、契約条項は雛形を“それっぽく貼る”のではなく、システム構成と言語・運用実態に合わせて、責任分界と期限と証跡を調整する必要があります。

もし「うちの構成だと、どこまで条項に落とすべき?」「止められない基幹がある中で、SLAや脆弱性対応をどう合意する?」「ログや証跡の設計が分からない」「委託先・再委託・クラウドが絡んで境界が曖昧」など、具体論で詰まり始めたら、一般論のまま突き進むのは危険です。株式会社情報工学研究所のような専門家に相談し、契約と運用とシステム設計が一本線になる形に整えることをおすすめします。